「大漁大漁っ」

ズボンのポケットをふたつとも目一杯膨らませた英二の髪が隣でぴょこぴょこ揺れる。
ホームルームの後教室までまで迎えに行ったら、案の定、見事に女子とも混ざってお菓子交換の真っ最中だった。
絶対に遅刻か遅刻スレスレで来るという予想、というか前科があったために手塚直々の部長命令が俺に下ったわけだ。

半端な時間で人の少ない廊下を並んで歩く。

「あんまりギリギリにならないように、って朝にも言っただろ?」
「だからなってないじゃんか」

それでも俺が6組に着いてから強制連行するまでにかれこれ10分は待ったと思いますが。

「俺があそこで連れてこなかったらまだ続いてただろ」
「んー、そーかなー。そーかもなー」
「お前が遅刻だったら俺も10周だって言われてるんだからな、連帯責任で」

結構強引に連れてきた気がする。
こんな理由でレギュラーが2人ペナルティなんて後輩に示しがつかなすぎる。
というわけなので最終的には引っ張ってきた、かもしれない。

「やーんおーいしくんてばゴーイン〜」
「強引ーじゃないよ俺も大変なの」
「ん」

小さく声をあげて、たたん、と俺の数歩前に出た。
そこでくるんと振り返る。
良い笑顔。

「……何を企んでいるのかな」
「トリックオアトリート! 今日ちょっとびびったっしょ!」

ああ。

「だから今年は異様に色んな人に要求されたのか……」
「にゃははははは。いつまでも今までのオレと思うなよ!」
「タカさんにアメあげた時点で何かを疑っておくべきだったな」
「げ、アメまだ持ってんの?」

いや、それでもまだ余っている筈。
手を持ち上げかけて気がついた。

「……不二…………」

英二のクラスに向かう途中で会った不二に鞄を渡してしまっていた。

「英二迎えに行くんでしょ。今両手塞がってたら絶対無理だと思うよ」

にこやかに手を差し出して言った声が蘇る。
確かに両手が埋まっていたら強制連行は不可能だったわけで不二の言葉は正しくてその行動もありがたかったわけだけど、何か他意があるような気がしてならない。
いや、人を疑うのはよくない、よな、

「おー、グッジョブ不二!あとでもいっこアメを進呈しよう」

今日の俺は勘が良いらしい。

「ということでおーいしくん、トリックオアトリートです」
「……鞄の中」
「それはそれは残念だなー。じゃトリックの方で。あれ、トリート?どっちだっけ」

悩み始めたのも束の間、結局、まーいいや、と呟いて、

「じゃイタズラの方で」
「今日1日かけて悪戯しただろ」
「にゃっはバレてた? じゃあしょーがないなー、」


そりゃ驚きましたとも。
基本ハロウィンなんて部活と妹とちょっとやる程度なのに。
一応程度に持ってきたアメはほとんどからっぽだ。
また手の込んだ悪戯を。
にっこり笑って、ポケットから取り出したカラフルなアメのひとつを手渡される。

企んでいることが分かる自分が恨めしいやら何とやら。
英二お前これやる為だけに今日一日尽力しただろ。
悪戯はオマケで目的はこっちだろ。
ここ学校ですけど!


「お菓子の方、いただきましょーか!」



Trick and Treat !!


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こちらもハロウィンの日の日記から。
10月31日の大石くんの仕事はお菓子交換に勤しんでいる菊丸くんを部活に遅刻させないことです。
なぜなら前科持ちだからです。バレンタインもしかり。

うちの不二せんぱいは面白そうかそうじゃないかで動きます。