期末テストもようやく終わって、少しと言わず多分にほっこりした空気、騒がしい空気の流れる1階教室。

「よかったら住所教えてもらいたいんだけど、今年年賀状出しても大丈夫かな?」

もう大方の友だちには確認が取れた。予想以上にぽんぽん早く集まる個人情報にはちょっと驚いた。
別にみんなが自分に住所を教えることを渋ると思っていたわけじゃないけど。
ただ面倒かなあ、とは思って。
この間「面倒だからメールでいいか」みたいな会話も聞こえてきたし。

ひとりに聞いたら我も我もと集まってきてくれたから助かった。


あとは部活関連だけかなあ。

それはこの後部活に行ってから聞けばいいだろ。

「あ……、でも聞ける人には今のうちに聞いておいた方がいい、か?」

先輩たちには当然部活の時に聞くしかないんだしな。
そう思って、とりあえずここにいるはずの人間を探した。

「あ、菊丸く、」
「えーいーじーでいい!って言ってんだろ」
「………、キクマルエイジくん」
「なんでフルネーム」
「……ごめん」

なんとなく、下の名前を呼ぶ、ってことに慣れてなくて、っていうより今までそんな習慣もなかった。
妹のことは名前で呼ぶけどそれは生まれた時からそうだしまさか大石って呼ぶわけにもいかないだろ?

そういうわけでおれはちょっと気を抜くと「菊丸くん」って呼んでしまう。
それでその度にダメ出しを喰らう。

最近はその回数も減ってるんだけど。
実はもう部活の時のダメ出しはもうほとんどゼロだ。

すごいなおれ。
テニスをしてる時は「英二」って言えるし叫べる。

まあ何故か教室に入るとダメなんだけれど。
なんでだろう。

というわけでおれは時折彼に怒られる。
どうしてかは分からないけど、ここにいると下の名前で呼べないなんてなんだか小説の中の女の子みたいでいやだなあ。

年賀状出したいから、住所教えてもらえるかな?

そう言おうと思って、

「あの、年賀状」

『出したいから住所教えてもらえるかな?』は英二の、あ、そういえば!っていう表情と人差し指にとどめられた。

そのまま少し顔を寄せてくるからおれも真似をして顔を近づける。内緒話の距離感だ。
乗り出した腹と胸の間あたりが机の縁にあたった。

「大石んチに出すのって、『明けまして』じゃなくて『カンチュウオミマイ申し上げます』のがいいの?」

「……へ?」

乗り出した身体が若干滑って、腹と胸の間あたりが机の縁に押し付けられる。いたい。

「普通に『明けまして』で大丈夫だけど……、えっと、どうして?」
「金魚死んじゃったって言うから」
「金魚?」
「じゃないかも。魚?」
「ああ……」

確かにおれの部屋の小さな水槽の中の一匹は、夏と秋の境目の頃にいなくなってしまった。
ちなみに金魚ではなくて、鮮やかなブルーだった。

で、どうしてそれと寒中見舞いに繋がったのかというと、一昨年お兄さんが、友だちのお祖父さんが亡くなったとかで「年賀状」ではなく「寒中見舞い」を出したかららしい。
「アイツのじいちゃんが亡くなったから年賀状は出せねんだよ」と説明をされれば、まあ普通は「誰か家族の方が亡くなったら、寒中見舞いになる」という解釈になるだろうけど。

「なーんーだーよ、悪いか」

拗ねて不貞腐れたように唇を尖らせる。
この仕草は機嫌がいいときも悪いときも出るくせなんだと最近知った。
だから表情と声なんかで判断しなきゃいけない。

「いや?」

英二が逆向きに座った椅子がきこきこ揺れた。
鼻の頭の絆創膏に少ししわがよる。

「かわいいなあと思いまして」
「そりゃドーモ!」

思い切りおどけた表情でからかえば、デコピンと共に返事が返ってきた。

英二の中では、おれの青い魚もおれの家族カウントなのかもしれない。
「かわいい」勘違いは、そういう考え方から飛び出して来たのかなあと思った。

「じゃあフツーに年賀状でいいのな?」
「ああ。おれも出して大丈夫ってことでいい?」
「オケ!うちは犬も鳥も元気だ」
「それは何より」

おれの黒に近い青の手帳に元気の有り余った字で住所を書いている途中で、つと顔があがった。

「なあなあ、オレンジと青どっちがすき?」
「なんで?」
「今年の菊丸的年賀状カラーだから。どっちがい?」
「どっちでもいいよ」
「どっち!」
「じゃあ英二の好きな方で」

名前呼び苗字呼びのダメ出しは回避できた。よし。

なんだよせっかく聞いたのに、とまた絆創膏にしわを作ってペンを動かしに戻った。
英二の年賀状は毎年手作り感溢れるステンシルのものらしい。

「よしそんな謙虚なオーイシくんには大サービスで2カラー混ぜちゃる!」
「い?」

青とオレンジって混ぜるとどうなるんだ…?
どっちか答えておけばよかったかもしれない。

「うぉーい、オマエも住所教えろって」

とりあえずそれは考えないことにして、差し出されたメモに郵便番号を書き始めた。




正月の朝に届いた彼からの年賀状は、橙色と青色の2色使いが元気できれいな明けましておめでとうだった。



((カードカードカード))



――― A few years later ...

(あ、年賀状今年の?)
(それすごくない? 菊丸印の本年度最高傑作!)
(――け…っ)
(『おれたち結婚しましたっ☆』)
(やめなさい洒落にならないから!!)
(大丈夫だーって。不二とかにしか出してねーから!)
(余計洒落にならない!)




uoさまへ捧げます。
遅くなってしまってごめんなさい・・・!
リクエストの「年賀状送るねー☆」要素をうまくくみこめてないですよね!中1の愛い感じもうまく出せてない感が否めませんね・・・!ブーイングバッシングクーリングオフどんと来いです!
uoさまのお気に召すまで出来る限り加筆修正はいたしますので!!
あ、因みに結婚はしてないです(笑)

相互ありがとうございます!
今後とも仲良くしてやってくださいねー!
091214