何の脈絡もなく、ふとした瞬間に唐突に言われた言葉。

「おーいしー今日さ、電話してくんない?」

隣を歩く英二は、いつもと同じ表情だ。

毎日どちらともなく連絡をする。
大した用件はないし、特に約束事ではないのだけれど、いつのまにか習慣になっていた。

「別にいいけど……、何かあるのか?」
「大変なんだよー」
「大変?」

大変、と言われても。
それに動揺しないくらいの期間は、付き合ってきてるから。
少しだけ怒ったような焦ったような、大きい眼をさらに大きくした表情も、かわいいなぁなんて思う。


「とゆーわけで大石くん、今日は愛しの菊丸くんにラブコールをするように!あ、イエデンで良いかんなっ」


じゃね、あとで〜っ、と俺の腹のあたりに抱きついて英二は帰っていった。

とゆーわけで、ってどういうわけで?なんて考えてみても、やっぱり俺には分かるはずもなかった。




「で、どういうわけで?」

その日の夜、電話越しに聞いてみた。

「大石のケータイってさ、ランキングみたいなの、ついてる?」
「ランキング?」
「ん、そ。ケータイの電話帳のとこにね、ついてんの」
「へぇ。検索のところ?」
「そうそ。そこでさ、電話とメールいっぱいした人〜みたいな感じで、1位から順番に並んでるワケですよ」

面白い機能だな、と思いつつ、ちょっとした好奇心で聞いてみる。

「ちなみに、内訳は?」
「そこなんだよ問題は!」

仰向けに寝転がって足をぶらぶらさせながら電話を耳にあてる英二が、がばっと起き上がるのが見えた気がした。

「メールはね、ダントツで大石がトップなわけよ」
「それは光栄」

何でもないように言えただろうか。
無意識に、顔が緩んでいる気がする。多分気のせいじゃない。
弱いなぁ、俺。

「で、電話なの!電話!」
「うん」
「このままだと兄ちゃんに負けるんだよまじで!」
「………なるほど」
「とゆーわけなので、ただいまよりラブコール強化月間を開始します!」
「承りました」

電話の回数なら、発着信合わせての数字だろうから俺と英二、どっちが掛けたって順位は変わらないはずだ。

けど、でも、


―――今日さ、電話してくんない?


俺から英二に連絡する回数よりも、英二が俺に連絡する回数の方が、遥かに多い。
メールならその差は小さいけれど、電話になると大きくなる。
俺が何となく躊躇している間に、英二が先回りしてくれるから。

(けど、おればっかじゃクヤシイじゃん)


イエ電で良いからなっていうのはつまり、長電話になるぞ、ということ。
長電話にするから覚悟しろよってこと。
もっと声を聞かせて、ってこと。


お望みならば、喜んで。






今よりも、ちょっとだけ、少しだけ、昔のはなし。
さらっと電話出来ちゃう大石も好きだったりします。
英二のメールは脈絡もなくて短い気がします。
単語1つだけとか。
だから件数がハンパない、とかだといいなぁ。岳人と仲良くなれるはずです。