「はい、あーん」 「………。いえ、結構です」 放課後、いつも通り時間にすっごく余裕をもって部室に来た日吉に、おはよー、とか、やっほー、とかよりも早くそう言ったら、テンションの低い返事が返ってきた。 ちなみに、おれは午後の授業は全部さぼってここで寝てたから、いちばんのりだ。 「はい」 「いや、だから俺はいいです」 「ぜってーおいしいから!」 いつもひとに見せてるぴんとした顔に、ちょっとだけ困ったような感じをまぜて「いりません」って言う日吉の目の前まで、寝起きで座ってたソファからずいずいーって移動して、手ににぎってたお菓子をぐいっとつきだす。 「へーき、絶対へーき!」 「……………」 クチビルにチョコがくっつくまで近づけて、日吉はやっと、しょーがなく、って感じで口を開けて先っぽをかじった。 「どーよ?」 「…………美味しい、です」 「ねー?うまかったっしょ?すっげーさっすがおれ!」 「前のより……甘さ控え目、ですよね?」 「でしょでしょー。絶対これなら日吉食べれると思ったんだよね!」 これこれー、って言って上向きに投げた半開きのお菓子の箱はすっぽり日吉の両手の中におさまった。 「微糖、ですか。珍しいですね、どうしたんですか?」 両手に持った箱を見て「いつもは訳がわからないくらい甘かったり無駄にチョコの比率が高いものなのに」って呟きながらおれ以外にはわかんないくらい首をかしげてる。 「いつものは大体ねー、クラスの女子とかたっきーとかがくれんだよ。今日んは自腹だかんね〜」 「なんでまた」 「だって日吉おれがいつも食べんのくらい甘いやつ苦手じゃん」 「アンタが甘党すぎるんです」 「だからねー、コレなら日吉も好きかな、って思ってさ」 「まぁ、嫌いじゃない、ですけど。」 ちょこっと眼をそらして、「ありがとうございます」ってぽつんと言った日吉がすっげーかわいくって。 おれの好きなものは、みんなみんな全部、日吉にも好きになってほしいんだ。 なんて、言ってみたらさ、きっと真っ赤になって固まっちゃうんだよね。 そんなかわいいトコは他のやつには見せたげない、って決めてるから今は言わないでおくけど。 「ひよー」 「なんです、……っ」 だからとりあえず今は、おれの近くでうっすら赤くなってる日吉に背伸びしてキスして、そのまんま、クチビルの真ん中にちょっと残ってるとけたチョコをぺろってなめておいた。 なんか、やっぱり赤くなっちゃってた。 おれにはいつものより苦いはずだけど、甘かった気がした。 +++++ 「ところでこれ、今日はポッキーじゃないんですね」 「あ、そーだった?」 「自分で買ってきたんじゃないんですか」 「うん。そーなんだけどねー。箱に『微糖』って書いてあんのとウラの説明しか見てないC〜」 「そうなんですか」 「ちゃんと味見した!」 「どうも。……『フラン』、ですか」 「ふーん?あー、たまにもらうやつかもしんない〜」 「何が違うんですか?」 「んー?んー…知ーらねーや」 「む………」 しばらく箱をひっくり返したりむずかしい顔して何か思い出してる日吉をうしろから、ずーっとぎゅーってしてた。 (メーカー!) (ふ?) (製造メーカーの違いだ!) (あーひよしかーわいーなー) (こうやって日吉に無駄な知識が増えていくんやなぁ) 結構前の拍手お礼です。 ポッキーとフランの違いについて本気出して考えてみた結果がこれですが合ってるんだろうか。どなたか教えてください。 実は微糖でも日吉にはかなり甘ったるい気がします。でも食べる。愛故(かなあ)。 |