「トリックオアトリートって言って!」 「……………は」 開口一番そう言われても、反応のしようがない。 申し訳ないが面白可笑しい対応をお求めならば別の奴のところに行ってほしい。 おそらくどこに行ったって俺よりは楽しい受け答えをしてくれるだろう。 「知らない?」 さすがにそれくらいは把握している。 昼休みに女子が集まって菓子を広げていたし。 正直くだらないと思った。要は甘いものを食べる口実が出来ればいいんだろう。 「知ってますけど」 「じゃあ言って!」 「何でですか」 「いいから!」 「だからどうして」 「言って!」 「嫌で」 「言うの!」 「………………………トリックオアトリート」 結局根負けしたというか、いつにない勢いに押されて言ってしまった。 予想以上に恥ずかしい。 何の罰ゲームだこれ。 その罰ゲームを課した張本人は、満足そうに、文字通り満ち足りた様子の笑顔で握っていた手を開く。 まさに昼休みに見たような小さな、おそらくあめ玉がころんと揺れた。 軽く捻られた両端を指で引っ張ると、ひとまわり小さい丸。 「はい!」 思い切り口に押し付けられる。 手のひらを口許にあてられているかたちだから、避けるに避けられない。 薄く開いていた唇にあたって、中途半端な位置に居座っている。 ずっとそのまま固まっているよりはと半ば諦めて口を軽く開いた。 予想通りに無駄に甘い。 予想外にあめではなかった。 「……チョコ?」 「そうかぼちゃの!ちゃんとオレンジだっただろー」 「正直完全にかぼちゃはチョコに殺されているかと」 そーゆーこと言わない!と言われ、そのまままた満面の笑みで手のひらを出された。 「トリックオアトリート!」 一瞬すごく間の抜けた顔をしたと思う。 口の中に9割以上残っているオレンジ色が落ちそうになるので口はあまり開かなかったと思うが。 「………………持ってるわけないでしょう」 「じゃあイタズラ!と、おかし」 「は?」 「それな、ラスイチなんだ」 「……はぁ」 すごくすごく、嫌な予感がする。 根拠はないはずだが逃げた方がいいような気がする。 そういう警報を身体中が発している。 そういう笑顔だ。 逃げろ逃げろ回避しろ自分。 何企んでやがるこの人は。 「いっただきます!」 数秒後、かぼちゃの味のしないかぼちゃのチョコは、跡形も無くなっていた。 Happy Halloween !! ☆★☆ ハロウィンの日記から。 こっちと黄金とで似たようなテーマと雰囲気で書きたかった気がします。 |