「腹減った」
「腹減りましたね」
「なんか作ってよ」
「嫌ですよ。俺今日担当じゃないです」
ハッキリした当番制があるわけじゃなくて、なんつーか、こう、そう、暗黙の了解。暗黙の了解的な当番制(要は1日交代な)に当てはめれば、確かに今日はおれが夕飯をつくる曜日だ。確かに。
けどしっかりした当番じゃないから、当然特例もあるわけで、つーか特例ばっかだろ、お互い別のところ通ってんだから。出かける時間も帰りの時間もいる日いない日もバラバラだ。
だから当番っても「なんとなく」なんだってば。
「おれこないだつくったし」
嘘は言ってない。
むしろ本当のことしか言ってない。
一番最近に飯を作ったのはおれだ。
だから今日キッチンに立つべきはおれじゃなくて日吉のはずだ。
おれは正当な主張をしているはずだ。
つーかな、たまにくらい久しぶりにくらい日吉のメシ食いたい! わけよ! わかる?! わかるだろ?!
「おれこないだつくったし」
「一昨日でしょう?」
人に話をするときには目を見て。
保育園の時に教えられたみたいなことを実践してみたら、1ミクロンたりとも逸らされないまま、まっすぐ目を見て(うっすら笑ってるし!)、さも正論であるかのように言い放たれた。
一昨日だけど!
一昨日ですけど!
「オマエ昨日作ってねーじゃん」
「ええでも、1日おきなら今日はジローさんの筈です」
ずずっと湯飲みの緑茶なんかに口つけて、しれっとしゃーがる。
コイツ。
コイツおれにやらす気満々だー!!
いんやいやいやおれだって今日は譲らないし。
うん、おれだって良い具合に温くなったソファからわざわざいなくなりたくないし、そこまで料理好きってわけじゃない。
ないし、今日は日吉が作るべきであっておれじゃない。断固!

下手したら外行くオチかな、と思ったとこで、日吉が空になった湯飲みをローテーブルに置いた。ごとん。
あーじゃあ、わかった、この際日吉がメシやってる間の洗い物はやってもいい。これでどうだ。
「ん?」
湯飲み置いて、こっち見てる。
「どした?」
「ジローさん」
ここでがっつり顔なんか見ちまったのが運の尽き。
「ジローさんの飯食いたいです」
いつもいつもいつも仏頂面のくせに、仏頂面のお手本みたいな仏頂面のくせに、コイツはこういう時にタチが悪い。
きょとん、つーか、素直なカオに弱いのよ! オトコは! オマエだって分かるだろうよ!
にっこりとは言わないけど、いつもへの字のくせに、ちょっと唇の端を上げて、まっすぐ見てきやがる。まっすぐってこういうとこだけいつも通りに。
心得てる女の子たちみたいに、かわいらしく小首傾げて上目遣い、なんてモンじゃねえし、100分の1のか弱さもないけど、クソ、心得てる日吉の方が100倍強い。
「……………」
「食いたいです」
「………オメ、覚えとけよ」
結局、ここ何年かで泣きたくなるくらい強くなったコイツにあっさり陥落して、してやったり(っつーより「計画通り」か。キラか)顔の日吉に台所に見送られた。

ここまできたら惚れた弱み。
実際マジで腹減ってるらしい日吉と、あと半分くらいはおれのため、ちゃっちゃか夕飯にしちまうとしよう。

(メシが終わったら反撃開始)



小悪魔(笑)日吉。
うそです。 日吉も下手ではないけどジローさんのご飯のほうがおいしそう。なんか手順とか分量とか見ててあれ?ってなる感じなのに出来上がってみたらうまい。なぜ。みたいなおとこの料理。
101030

(小悪魔っていうか食欲に忠実)