風が強かった。
もう暖かくなってきていたから、寒くはなく、ただ髪やジャージがたなびいて面倒で。
正レギュラー部員がまとまった、少し離れたコートにいる気の強そうな先輩の長い髪が、なぜか印象に残っている。

砂ぼこりで視界が危なくなり、地面のボールがそれぞれ好き勝手に転がっていくようになったあたりで、部活は自己責任で自主練だと指示が下った。
正レギュラーにとってはトレーニング場所を確保するのは容易なことだけれど、そこまで手の届いていない俺には、無茶な話だ。
練習場所を求めて無駄に時間を浪費するより、大人しく家に帰って道場にでも顔を出した方が賢明だろう。
そんな風に考えるのは、当然のことながら俺だけではなかったようで、準レギュラー以下の部員がぞろぞろと部室や教室、校門へと向かう。

大人数で動くのは嫌いだ。
嫌いというより、苦手。
一緒に馴れ合ってはいなくても、同じ行動をとるということに、何か違和感を覚える。
こんなもので、よく部活動に参加出来ているなと自分でも思うが。

人が減るまでのしばらく、どこかで適当に時間を潰していようと、角を曲がる。

「、…っ」

一際強い風が吹いて、砂ぼこりが舞う。
目にゴミが入ると、痛むだけでなく、涙で視界に白いもやがかかる。

取り敢えずこれ以上の痛みは御免だし後が面倒なので、片腕で目をかばって歩く。
腕の上からの景色を見ていれば、ここは本当に学校かと問い詰めたくなるほどの木々に衝突することもないだろう。

「な、……っん、?」

突如何かに蹴つまずいて体勢が崩れた。
何時もならば受け身をとれる筈なのだが、何故か本格的に体勢を崩し、そのまま前へ倒れる。

腹の辺りに樹の根や草ではあり得ない感触を感じ、若干混乱する。
混乱した頭で状況を把握しようと体をずらそうとすると、

「んー、むぅ」

体が動かなくなった。

「ちょ、何離、せ…ッ」

無理やりに、ようやく少し頭を持ち上げて、自分を拘束している何かを見る。

「……先輩…?」

他人の顔や名前を覚えるのは不得手だが、これは間違ってはいない筈だ。
というか、十中八九そうだろう。
この学園に、校内の敷地、屋外で眠りこける人間はひとりしかいない。
らしい。鳳曰く。あいつは何かと構ってくる変な奴だと思う。

落ち着いて考えたら目の前の人物はテニス部のジャージを着ているし、この金髪は正レギュラーの中にいた。と思う。

「ちょっと、あの、離してください」
「ん〜、やー…、もうちょいぃ……」

ぎゅむ、と抱え込まれてしまったので本気で焦り出す。

「人を抱き枕にしないでください!」
「じゃあゆたんぽ〜」
「大差ないです!」
「ぷー。はいおひるねー」

よしよし、なんて言われて頭を撫でられても。

そもそも正レギュラーのこの人は、ろくに口をきいた覚えのない自分の事を知っているのか、とか。
あるいは知っていて自分が忘れているだけなのか、とか。
頭から抱き込まれているせいで聞こえてくる規則的な音が、随分ゆっくりだとか。
寝ながら人の頭を撫でつづけるってどこの母親だ、とか。
この場所は風もないし暖かくて昼寝には最適なんだろうとか。


そんな状況にそぐわない事を思考回路の隅に追いやるのに苦労しながらひとまずは、

このあたたかくてゆるやかな拘束から逃れる術を考えた。





海月さまより、250打のリクエストをいただきました!
<ジロヒヨの出会いとか馴れ初め>との指令でして……。
取り敢えず、好き放題捏造してみました。

ジローが寝ぼけているのか否かはご想像にお任せします。
250ヒットありがとうございました!

+++
100104
ほんとにちょっと加筆修正