「…………で、結局、こうなるんですね」
「んー?」

おれが座り込んでるコートの隅っこにはおれと日吉しかいない。
野次馬で集まってきてたやつらは、おれを寝かせまいと頑張ってたやつらに追いたてられてあっちに行っちゃった。
だから、おれと、日吉で、コート一面占拠してる。

おれとしてはこのまんまで全然オッケイ、っつーかむしろちょうラッキー!って感じなんだけど、日吉がこんな状態にオッケなわけないじゃん?

はぁあ……、って「呆れてるんですよ!」ってのを思いっきし主張してくるため息をひとつ、大っきくしながらしゃがみこんだ。
うお。
近!

「………いい加減、これ以上ここにいると活動妨害以外の何物でもないですね」

足開いてしゃがみこんで手のひらを目のあたりにあてて、日吉はおれの方に顔を向ける。

目の上にあった手は、膝にひじを乗っけて手首から先がぷらぷら小さく揺れてる。

おれの目を見て、ちょっと斜め下くらいをその視線が泳いで、2秒くらい下向いたまま目ぇつむって、ゆらゆらしてた手を膝にあててそのまんま立ち上がった。

「ほら、…………行きますよ」

また、日吉の目が高くなった。

「デート?」
「馬鹿言わないで下さい。いつまでもコートの中に居座るわけにはいかないでしょう」

キビしい眼で言われる。
む。
まぁ今日は日吉不足解消のために来たわけだし、ここにずーっといたいわけじゃないしなぁ、って思って、そのまま手を上に伸ばした。

「んー」

ムシされた。
いつも以上に見下ろされてるから効果は絶大だ。
きゅうしょにあたった!
おれに120のダメージ。

しょうがないから、のろのろ立ち上がる。
律儀に待ってた日吉のとなりに並んで、そのまま歩き出す。

くい、

隣から小さく「あ」って聞こえて、力を抜いてぷらぷらしてたおれの右手を日吉の左手がつかんだ。

「なに手ぇつなぎたいの?めっずらC!ジローせんぱいちょううれしんだけど!」

つかまれたのよりも強い力でにぎったら、急にすっげー顔真っ赤にして、「………はぁ?!ちょ、なに言ってるんですか!」とか言ってぶんぶん手を振り払おうとしてた。
自分から握ってきたクセにー。

「違くて!ここは室内じゃないんです!」
「…………へ?」

日吉くんってばダイタン〜、とかとか言いながらへらへら笑ってたおれは一気にマヌケな声を出したと思う。

「えと、うん、」

たしかに今いんのは学校のテニスコートだから室内じゃないんですなのは当たり前なんだけど、え、突然どうしたんだろ、っていうかあれ、そういえばこんなん、日吉来たときも言ってたような言ってなかったような?

なんて、実はそんな混乱なんてしてないんだけど。
どしたのかなーってカオで続きを待ってみる。

「だからっ、それ、足」
「アシ?」

顔真っ赤にしたまんま、空いてる右手で指さされた方を見る。
左手は、まだおれに捕まったまま。

「あー……」

日吉の人差し指の先にあるのは、おれの足。

「どうして靴履いてないんですか」
「だってあの靴すきじゃねんだもん」

茶色にぴかぴか光る新しい靴は、足が痛くなるし歩きづらいからキライだ。

せっかくテニスやるって時に、そんなモン履いてらんない。
よく覚えてないけどそんな感じで脱いだっぽい。

「靴下を脱いだ理由は?」
「わっかんね」

多分、じゃまだったとかそんなんだ。
そういや、どこにあんだろおれの靴。

「多分鳳か他の部員あたりが部室まで持っていったんでしょうね……アンタの鞄と一緒に。樺地ならちゃんと靴は置いていくはずです」

頭使え、って日吉がみんながいるコートの方を睨んだ。
ということは、部室まで裸足かぁ。
ま、全然オッケーだけどねー。

「どうします?やっぱり俺が先に靴取ってきましょうか」

今さらなのに、そういう。
やっぱりいいこだよなぁ。

「んー。いい」
「怪我しますよ」
「だいじょうぶ!」

にっこり笑ってそう言って、バレてなかったけど今までずっと握ってた手をぱっと離した。
で、
思いっきり飛び付いた。
思いっきり飛び乗った。

「ちょ、…………降りてください」
「やだー」
「………………」

あ、またため息ついた。

「―――――――――」

ん?ってわざと顔覗いてみたら、急いでぷいって顔背けられた。


(硬くて痛くて動きづらくて、だから、キライ)



日吉がびっくりした時にずり落ちた分、両手と両足でしがみつく。
からみつく?


(けど、)




無言で早足で歩きながら、でもたまに体を大きく揺らして落っこちないようにおぶい直してくれる。



(たまにはこの靴も、いいかもしれない!)






グレちまうぞ!の続き。
樺地はすっごい気の使えるいいこだと思います。お嫁さんにおいで!
091108