「ありがと、ひよし。だいすき」

この人は、へにゃ、とだらしなく笑っているんだろう。

幸せそうに。
子供のように。
いつものように。


・多分。


実を言うと、さっきから眼鏡が欲しくて仕方がないのだが、一度断ってしまった以上言い出しづらいというか、少し前に訊かれたときは、近くにあるだろう顔を見たくなくて。
見てしまったら言いたいことばが伝えられないような気がしていた。

のだけれど。

顔が見えなくても、声は降りかかってくる。
ふわ、とした声で、だいすき、と。
自分でも頬が熱くなるのがわかる。

「あっはは、ひよほっぺまっか〜。かわE〜」
「なんでアンタは…っ」

そうはっきりと恥ずかしいことを言うんだ。まっすぐに。

両腕で顔全体を覆おうとすると、きゅ、とつかまれる。

「だーめ」

決して、強い力ではないし、どちらかといえばつかむというより触れるといった感じだ。
それなのに、動かせない。

はいいいこいいこ、なんて言って撫でてくる。

表情は、見えない。
声に乗って、伝わってくる。

「め、がね!」
「ほ?」
「眼鏡、取ってください」

自分からは見えないのに相手からは見えているというこの状況が悔しくて。
けれどそれ以上に、

(直接、見れるか……!)

薄いレンズの1枚でも挟んでいたい。
それなのに、

「だーめ!」
「な、んで」
「もう寝るし。いーっしょ!」
「答えになってないですっ」
「いーの! あれあるとじゃま!」
「俺は無いと見えないんです!」
「こんくらいならへーき?」

ぐい、と顔を寄せてくる。
髪が触れるくらいに。

「な……ちょ、離れてください!」
「やーだー」

あ、やっぱりにこにこしてやがるこの人。

今更な事を思いながらも、力いっぱい顔を遠ざけようと頭をうしろに

「……へ、」
「あーざんねん気づいちったかー」

引けなかった。

特に気にしていなかったが、顔を背けたときに頬があたたかかったような気が、する。

「な、ちょ、あ、え、何なん」
「むぅ。ひざまくら」
「な…っにしてんだアンタ!」
「ひよからしてきたんじゃん」
「絶対違う!」
「ほんとだよ。ひよし寝てたもん!」
「う。……と、にかく! 起こさせてください! 手どけて!」
「えーやだー」
「さっきからやだばっかりじゃないですか!」
「まーまー気にしないのー」

唯でさえ熱かった頬にあたたかい感触がして、硬直したところで、気がつけばふこふことあたたかい布団の中。

「はいおやすみー」
「へ、あ、?」

眠いでしょー、と頭を撫でられて、抱き枕にされていると、すぐに眠気が戻ってきた。

「……ふあ」

未だに慣れないあたたかさに、身を任せる。

「今日はありがとね、ひよし」

耳元の声も、心地いい。

「おやすみ」

あたたかい温もりと声に包まれて、眠ってしまう前に。

「おやすみなさい」





ジロー誕生日の続きですー。
めがねネタが好きみたいです。

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ちょっぴり加筆修正