暑い。
理由はカンタン。
今が夏だから。

太陽のあたる場所は、あつくても乾いた感じ。
「あっつー」とはなるけど、気持ち悪くはならないし、そういう暑いは、日陰は涼しかったりするし。
だから、そういう「暑い」はそんなにイヤじゃない。

逆に、灰色の雲がいっぱいなのに暑いときは、サイアク。
なんか身体中に何かぞわぞわしたものがまとわりついてきてるみたいで気持ちわるい。
どっちかって言うと、それは部屋のなかにいる時が多いと思う。


けど、夏だから暑いのは、カベのないところだけで、まわりにカベがあれば、そこは大体涼しい。

自分の家だとそんなゼイタクなことは絶対ないから、気持ちわるい方の「夏だから暑い」を味わってるわけだけど、学校にいる時は、まわりにカベがあれば、そこは大体涼しい。

部室は100パーセント、涼しい。
昼寝に最適だよ、って前に教えたげたら、

「アンタの場合昼寝じゃ済まないでしょう」

「じゃあ午後寝?」

「授業と部活に出てください。出ろ」

おデコをぺしって叩かれた。

まぁ、おれが何を言いたいのかっていうとつまり、テニス部の部室は冷暖房完備のハイパーに快適な空間だ、ってこと。


んで、今なにしてんのかっていうと、そのハイパーに快適な部室で、ミーティング中だったりする。

いつもどーりにそれぞれ好きなとこに座ったり立ったりして、真剣なカオして体ごと跡部の方を向いてたり、ぜんぜん神経がそっちに行ってないようで実はしっかり聞いてたり、色々だ。

おれは、ごろん、って寝っ転がってる。
おれの予定だと日吉のひざまくらのはずだったんだけどなー。
いつもと同じとこに座ってる日吉のとなりに行って、そのまんまこてんって倒れてひざまくらしてもらっちゃおうとしたら、おれの頭が日吉のひざに届く一瞬前に、すって立ち上がってソファの方に行っちゃった。逃げられた。

でも実は、ミーティングの時にひざまくら失敗するのははじめてじゃなくて、っていうかむしろ成功したことなんかなくて、おれとしては残念無念どこじゃない。
けど、あんまりずっとぐずぐずして追っかけてると
「暑苦しい!」
って跡部の鉄拳制裁が下る。
あいつに殴られるだけなら別に、ガマンするんだけど、そのあと日吉に口きいてもらえないのはツラい。かなりキツかった。

だから、最近は大人しく日吉を見てる。

「ひよしー…」

日吉はいつも、席のはじっこに座って、背中をぴんと伸ばして跡部の方を見てる。

「―――――――あ」

ま、跡部に殴られんのなんかよくあるし、って思って、日吉の方に行こうとしたら、近くにいた宍戸にがしって頭つかまれて小声で怒られた。


「長太郎が便乗すんだろが!」

「だって日吉がー」

「もう終わんだからちょっとはガマンしてろ」

「宍戸ー、あのさー」


言いかけたとこで、頭をぽんぽん、ってされて顔を離された。
「あのさー、ちょたろが見てるよ」、って言おうとしたんだけどなー。
たしかに顔近かったけどそんなん昔っからじゃんね。あ、オートリはそんな知らないっけ。
とかとか、色々考えてる間に、宍戸はオートリに拉致られてったから、おれはやっと日吉解禁になった。


「何やってるんですかアンタ」


まぁ、いつもどーりと言うか案の定にらまれて。


「みんなコワイってゆーけどかわいいよねーそのカオも」

「眼科に行ったら如何ですか」

「ひよとおそろいのメガネならいーよ」

「断固拒否します」


そんなことより、って前置いて、さっきと同じ意味のことばをもう1回言った。


「だから、アンタは何をしてるんですか」

「んー。救助?」

「…………は?」


ほんとに、ワケわかんないってカオしてる。
ほんとカオに出るタイプだよねー。あー、かわいーなー。


「寒がりな若くんをレスキューしに来ましたー」

「…………何阿呆なこと言ってんですか。離してくださいっ」

「えー。やーだー」

「やだ、って、」

「日吉クーラーきらいだもんねー」


いっつもクーラーなんか使わないから。
うちわとかで暑さに勝てるようになってる。

あと、それと、


「いっぱい動いたあとだったし?」

「…………………」


何にも言わないは、「イエス」ってこと。


「……………少し、汗がひいて冷えただけです」

「ふーん。そっかそっか〜拗ねないすねない」

「とか言いながらアンタは何をしてるんですか。あと拗ねてません」

「え、なでてる」


もう黙ってくれるなら勝手にしてください……、って言って、小声でお説教してたひよは大人しくなった。
グッジョブおれ。

けど、いつもと違って暴れるポーズだけでもとらないのは、
結構ムリなカッコでうしろからぎゅむーって抱きついてくっついたおれがあったかいから。
ジャージ着てないから直でくっついた腕がつめたくて、あったかいから。
くっついたお腹と背中が、あったかくなるから。

っていうのも、あったらいいな。



レスキュー、完了!




fin.



企画:一歳差さまに提出させていただきました。
体温高いジローとクーラー苦手な日吉、という構図を思い付くのは早かったのですが……。遅筆だな自分。
前に書いたジャブンに非常に近いですねー…(遠い目)
(おまけ?)
「まだミーティング中だ……!」
「まぁまぁ跡部、抑えて抑えて」
「宍戸さぁん!」
「ジローてめえ!」
オチに入れるか入れないか迷って結局入れなかったその後の目に見えた会話。(跡部・何故かいる滝さん・長太郎・宍戸せんぱい)