「あ、日吉飲む? さっきもらったんだけど」 そう言っていつもの気が抜ける顔で笑う鳳が差し出して来たのは、ピンク色の何か。 女子が好みそうな鮮やかな色にそれに合うような爽やかな色のマークとロゴが入っている、ギリギリ片手で持てる大きさの紙パック。 紙パックの口を器用に少しだけ開けて、そこに伸びない曲がらない白いストローが刺さっている。 「いらない。自分で飲め」 「えー? 結構美味しいよ? どっちかって言うと紅茶って言うよりジュースに近いけど」 「それなら尚更飲むわけないだろ」 「んー、まぁそれもそっか。俺もさすがにこの量は多いんだよねえ」 「キツいなら買うなよ」 ぢぅーと音を立てて少なくなった甘い液体を吸って、ストローから口を離して目の高さまで上げた紙パックを眺めている。 多いと言いながら結構飲みきってるんじゃないか、お前。 「大体それ、基本女子が飲むモンだろ」 「だからさっき言ったじゃん。もらったって」 「女子にか?」 「向日先輩に」 なるほど。あの人なら飲むかもしれない。 しかし向日さんも向日さんで甘いものは好まなかったような気がするが。 「新作に釣られていっぱい買っちゃったからって。飲みきれないからやる、って言われてさ」 要はあの人も飲みきれなかったのか。まったく無駄遣いだ。 実は、誰かにあげとけってもう1本渡されちゃったんだけど日吉いらない? と隣にある鞄からもう1本、色の違うパックを取り出してきた。 「だからいらねえっつってんだろ。大体それ、甘すぎんだよ」 「あれ、日吉これ飲んだことあるの? うわー意外だー」 散々勧めておいてよく言う。 「別に飲んだことはないけど」 「けど?」 「甘かった」 「へ? 飲んだことないんでしょ? ―――あ」 「………なんだよ」 人の顔見てにやにやすんな。 気色悪ぃ。 「飲んだことないんでしょ? どういう状況で甘かったの?」 「はぁ? どういうじょうきょ、…………!、」 ……くそ、変なところに食い付いてきやがった。 適当に流しておくべきだったかもしれない。 でかい身体に似合わないくらい瞳が煌めいている。気がする。 止めろ気持ち悪い。 認めない。断じて認めないが、全身が熱い。 ああ、畜生。 完全に失言だった。 どうしてこんなぼやぼやしてる奴がこういう時に限って勘がいいんだ! 10分以上ストローをくわえていたくせに、何を思ったんだ、あの人は。 小説くらいゆっくり読ませろ。 「えー、何だかんだで仲いいよねえ。……ところでそれって、…っ」 「何か用か」 「何ですぐ殴るの……!」 「悪いな自衛本能で」 「うう……暴力反対」 女子が好みそうな鮮やかな色にそれに合うような爽やかな色のマークとロゴが入っている、ギリギリ片手で持てる大きさの紙パック。 紙パックの口を器用に少し開けて、そこに伸びない曲がらない白いストローが刺さっている。 その中に入っているものは、喉元を過ぎても口内に残るほど甘味が強くて。 その甘味は、他人にも伝わるほどで。 『紅茶はリプトンに限る!』 あの人のよく分からない持論は 俺に迷惑だ! ―――とある昼下がりのキスは、人工ともうひとつの甘味がして。 甘いちゅーは如何でしょうか。 100218加筆修正 |