「今日、誕生日なんだって?」

クローム!と自分を呼ぶ声がして、聞こえた声に顔をあげた。
見上げるとそこにいるのは自分が守らなければならない人で、その人は大きく肩で息をしていた。とても最強と謳われる人間には見えない。
変な人だと思った。

「………ボス」

「さっきリボーンから聞いてさ。あいつもっと早く言ってくれればよかったのに」

大きく息をして呼吸を整えながら、その合間合間に話しかけてくる。

もっと、自分のことを優先させればいいのに。
もっと、自分のことを考えていればいいのに。
ろくに関わりもない他校生のことなんて放っておけばいいのに。

それでも、この人は私を甘やかそうとするんだろうと思う。

「クローム今日さ、このあと用事ある、かな?」

その問いには首をふるふると横に振ることで答えた。
私の意思表示は、大抵相手に困った顔や戸惑った顔、嫌悪の表情をさせてしまう。

だけど、目の前にいる変な人はその対応にぱっと目を輝かせた。
驚いた。

「ほんと?よかったあ」
「……え…?」

安心したようにへにゃ、と笑った。
なんだかどこかほっとするような表情だ。
公園のベンチに座っている自分と、その正面に立っているボス。
その距離が少しだけ縮まった。

「今日元々獄寺くんと山本はうちで夕飯食べていく予定だったんだけど。母さんがオレの友だちの誕生日なんだったら急いでごちそう作らなきゃ、って買い物行っちゃって。もしクロームがよかったら、なんだけど、その、うち来ない?」

自分は、すごく間の抜けた顔をしていたんだと思う。
見上げた男の子の表情が、不思議な表情になって、不安なものに変わった。

「あ……、やっぱ、やだ、かな」
「ともだち」
「え?」
「めいわくだから」
「えっと……」
「迷惑、でしょ?」

当然だ。
ボスのお母さんなんて、会ったこともないのに。
迷惑に決まってる。
誰が見ても仲のいい友だち同士の空間に自分が入り込むなんて。

「そういうこと、言わないでよ」
「……………?」
「クロームはそう思ってないかもしれないけど、でもオレは、クロームは仲間だって勝手に思ってるから」
「…ボス……?」
「あ、戦ってくれたからそういうんじゃなくて!その、オレ頭悪いから仲間とかファミリーとか違いが何なのかとかよくわかってないけど、えっと、だから、仲間だから友だちだから!」

正直よくわからなかった。
けど、そのよくわからない理屈を頬を真っ赤にして半ば叫ぶように言う彼を見て、やっぱりよくわからない気持ちになった。

「ボス」
「ん?」
「ボス、顔、真っ赤」
「夕方だからだから!」

隣に座ったボスがつんつんのクセっ毛と言って気にしている色素の薄いふわふわの髪の毛が、夕日の橙を映してきれいだった。
この人が変な人でやわらかい人なのは、ふわふわだからかもしれない。

「クローム、大丈夫?やっぱり予定とか……」
「ない…」
「?」
「あ、の、えっと、わたし、」

前面に押し出された好意に何と言っていいのかわからなくて、何となく伝えたいことが喉で留まってしまう。
こんなにもぐるぐる考えているのに。
自分がいやになった。

せっかく、少しだけ顔を向けて話せていたのに。

ボスは待っていてくれた。
ボスの家の小さなこたちに向けるような、やわらかくってあたたかい、一度だけ犬(実質は千種)が作ってくれたハチミツ入りのホットミルクのような瞳で待っていてくれた。

「お言葉に甘えて」なんて長くて便利な言葉は言えそうもなかったから。

「……ありがと」


顔も見られないで言ったたったそれだけの言葉に、小さく、ほ、と息をついて立ち上がって、それでもまだ立ち上がらない私に、右手を差し出した。
ボスの片手と顔を見比べる。

いつまででも待っていてくれそうだったから、ゆっくり、中指に触れてみた。
私よりもあたたかくて、びっくりした。

「うわあ冷た!もしかしてずっとここにいたの?手袋貸すって!」

途端に別人のような大きな声を出して反射かそのままぎゅ、と握られる。
もう固まるしかなかった。

「あー、コートのポッケだ。急いで出てきたからなあ……」

どうしようかと呟いて、

「あんまり人いないしいっか。クローム、行くよー」

そのまま歩き出した。
手は繋がれたまま。

「うちのチビたちより冷たいよ?」

繋がれた手の感触が慣れない。
さっきのようにこっちの気持ちを察してくれないだろうか。

「ともだち」だとか、手を繋ぐだとか、今日はカルチャーショックが多い。

「……ぁ」

小さなことを思って、立ち止まってしまった。
手と手がくん、となる。

「どうしたの?」
「ともだち」
「うん?」
「ともだちのなかまは、ともだち?」


下手な謎掛けのような、私の本気の質問に、やっぱり笑顔で返してくれた。


「多分そうだから、あのふたりも呼ぼっか」


この人は、髪がふわふわだとか瞳が淡いとかそういうのではなくって。
空気を淡い橙色にしてしまう人だった。




日吉の誕生日を大騒ぎしたあとにふと、クロームもお誕生日だあ、と思いまして。12月5日の日記から。

クロームとツナ、とかクロームとイーピンとかランボとかの組み合わせはどうにも和みます。
唐突に書きたくなって、はじめてリボーン書いてみました。
クロームとツナで、「×」じゃなくて「+」って感じ。あのほわほわした雰囲気を出せるようになりたいです。