「みなみってさあ」 「うん」 「なんか人のために死んじゃいそうだよねえ」 「うん?」 他人様のベッドを占領してうつ伏せに寝そべって雑誌を眺めている千石を、背もたれと化したベッドに背をつけたまま首だけで見上げてやる。 さっきまでぱらぱらと捲っていた雑誌は無造作に放り投げられていた。 「なーんかさあ、全然知らない子供のためとかに死んじゃいそう」 じゃない? とよくわからない笑顔を向けてくる男に勝手に殺すな、と軽く眉を寄せて見せるとまたよくわからない顔になる。 「なんか変なモンでも食ったか」 「やだなあみなみ、あっくんじゃあるまいし」 「亜久津は自炊できるだろ」 けたけた笑って南って突っ込み所ずれてるよねえなんて失礼なことを言ってごろんと仰向けになる。伏せられた雑誌がガサリと音を立てた。 「で?」 「うーん」 「……」 「なんかさ、南は他人のために死んじゃいそう」 「勝手に殺すな」 「で、俺は俺のためにひと踏んづけそう」 知らずふうと息が漏れた。にこにこにこにことした表情はさっきとかわらない。そのままだ。そのままの顔で、山吹のエースくんは自分至上主義なのと言う。 やれやれだ。 今度は何を見たのやら。映画かドラマか小説か。もしかしたら昨日母親が観たという洋画かもしれないなと思った。 この男は、自分が、自分が思っている以上にうわべの笑顔なんて取り繕えていないと知っているのだろうか(おれには裏なんかわからなくてこわくなることなんてまあそれ以上にあるわけだけど、こういう時はかんたんだ)。 バカなやつめ。 「千石」 「なあにみなみ」 「じゃあ」 「うん」 「おれはお前のために死んでやるからお前はおれのために生きろよ」 いつもいつもごちゃごちゃとわかりにくいことばっか言いやがってしやがって。 南は鈍いよなんて失礼極まりない(千石以外にも言われるけれど)台詞を散々吐くなら鈍い南にわかるように行動しやがれ。 リベンジというと語弊があるけれど、ちょっとした仕返しのつもりでごちゃごちゃした台詞をごちゃごちゃと引っくり返して言ってやったら、うつ伏せに転がり直して頬杖をついて乗り出した顔が、きょとんとこどもみたいに目を見開いていた。口は半開きの間抜け面だ。 身体を半分ひねってその珍しい表情を拝んでやると、目がすこし細くなった。 「みなみ」 「なんだ」 「それすっごい殺し文句」 はあ? と顔をしかめたらもっと目を細くして上半身ですりよってくる。 頬が赤い。 こどもみたいな表情といえばこどもみたいな表情だけど、さっきのとはまた違って、たまに見せる方。 「ねえみなみ! ねえすごい俺こんな情熱的な口説き文句はじめて聞いちゃった!」 「誰が口説いた!」 もうメロメロなのにこれ以上惚れさせてどうするつもりなのみなみ、なんて世にも恐ろしいことを言いながらTシャツの首もとに絡み付く両腕を振りほどく。 振りほどいて睨み付ける。 頬に唇がかすった。 「もう愛されちゃってるなあ俺」 「もう帰れお前」 「やん酷い」 「みなみの為に死んであげるためにみなみの為に生きたげるよ。みなみってば幸福者じゃない? このエースラッキー千石にここまで言わせるんだよ、ちょっとばかりの愛の証明にかわいらしくキスくらいしてくれてもいいと思うんだけど」 分かりやすい笑顔でせっかくとった距離を詰めてくるから、頬に噛みついてやった。がぶり。ざまあみろ。 たまにめんどくさくなる千石に仕返しできた気分の南。 みなみ誕以来南ブームというか山吹ブーム再来が止まりません。 100720 |