「……何やってんだお前」
「さぼり」

んな堂々と言いやがって。
まぁ分かってて聞いた訳だけど。

「ほら行くぞ」
「ヤだ。暑い」

ブン太は暑さ寒さに弱い。
寒いのが苦手なのは自分も同じだが、暑さにも寒さにも弱いとなると、一年中の色々なことに影響する。

で、ちょうど今がその[色々なこと]にあたっていたりする。

「アホか。いつまで寝てんだよ」
「冬になるまで」
「なったらなったで今度は寒くて動かないんだろが」
「当然だろィ?」
「なーにが当然だ。いい加減にしねぇとそろそろ真田が探しに来るぞ」
「真田にゃぜってー見つかんねーもん」

天才的?とか言って得意気に笑っているが、こいつが部活に来ないと俺もとばっちりで説教とゲンコツを喰らう羽目になるのでとっとと切り札を出すことにした。

どうせ行くならさっさと行かせないと今以上にバテてかわいそうなことになるし。
ブン太が。

「さっき探すって言ってたぞ、幸村も」
「……げ」

一気に表情が変わった。
余裕綽々の笑顔から一変、絶体絶命だと言わんばかりの苦い顔だ。
……そりゃそうか。

「ううううう………」
「幸村が出動する前に大人しく部活行くか、「行く」
「よしほらじゃあさっさと行くぞ」
「ん」

伸ばしてきた両腕を引っ張って立たせようとしたら、不満気にガムが膨らんだ。

「どうした?」
「丸井くんは暑すぎて歩けません」
「さすがだぜ愛してる!」

短く息をついて背中に引っ張りあげる。

「暑いんじゃないのか?」

若干歩きにくい程にぎゅうぎゅう締め付けてくる細い手足に笑いながら聞く。

「細かいこと気にすんなハゲんぞ」
「うっせ。お前こそますます太ったんじゃねぇの?」
「筋肉だっつの!」
「嘘つけ」

実は全く重くなど感じない小さい体をおぶって、コートに向かった。





++++




「……寒い」
「クーラー切るか?」
「うーーー」

人の部屋に入るなり勝手にクーラーをつけたのはこいつだから、そんなことを聞く必要は本来ないんだろうとは思うのだけど。
やっぱり放って置けないというか。
というかこいつはひとりで生きていけるのだろうか。

前に「お前独り立ちとか絶対無理だろ」と聞いたら当然の如く「お前が面倒みるんだろぃ?」と返された。

既に日常と化したブン太のわがままが嬉しいと、可愛いと感じてしまうあたり俺ももう末期だ。

「あー……さーみィ」

勝手知ったる他人の何やらで、その辺に放り投げてあった俺の上着に腕を通している。

「ちょい待ち。指も出ないってどうよ何だコレ腹立つ!」

袖口がだらんと下がった両手をぶんぶん振って口を尖らせる。

「こら脱ぐな。寒いなら大人しく着とけよ。クーラーは切りたくねぇんだろ?」
「切ったらあちーじゃん」

暑いのは嫌いだけどクーラーの人工的な涼しさも苦手。
矛盾しているようなしていないような。
最初こそ驚いたものの、こいつのムラがある性格にはもう慣れきっているし、これがこいつなのだ。
だからこそ何だかんだ言いつつ世話を焼いてしまうのだろうし。

「何だよこれ。キョンシーかっつーの」
「まくっとけよ」
「落ちてくんじゃん」
「折っとけ」
「メンドい」

来ると必ず出来上がる菓子の山と汗をかいたジュースに手をのばす。

「…………」
「ほら見ろ手ぇ使えないだろ」
「ほい」

ずい、と手を伸ばされて。

「あーもうほら、こっち来いよ」

すとん。と、
俺の足の間に座って、全体重を任せてくる。

「子供かよ」
「おとーさんシクヨロー」

お子様体温のブン太にしては、かなり身体が冷えていた。

「俺で暖とってんなよ」
「こまかいこと以下略」

背中から腕、脚をぺったりくっつけて、少しすると静かになった。

結局、真田にくどくどと怒鳴られる光景をにこにこした幸村に眺められるという神経をすり減らす状態に耐えきった後、普段の2倍以上のダブルス練習を課せられたのだった。
因みに、俺のスタミナ強化の為にやる予定だったメニューを急遽ダブルス用に変更したらしい。
これに懲りてサボり癖を直すのも、もって2週間だというのが俺の予想だ。

持久力が売りの俺とほとんど同じメニューを、技術による攻撃型のこいつがこなしたのだから、バテるのが当然というか何というか。

俺に寄りかかったまま熟睡している。

取り敢えず、ずり落ちそうになっている身体を片腕で支えて、部活でぐしゃぐしゃになった赤色をもう片方の手ですく。
顔についた菓子のクズを軽くはらって。
自分の両腕をひとまわり小さい身体に回したあたりで、ふと思い出した。



『お前は丸井に甘すぎる!』

『ジャッカルはちょっとブン太を可愛がりすぎじゃないかな』


鬼の副部長と魔王幸村のお言葉。
さっきはそんな言うほどでもないだろ、と言ったし本気で思っていたのだが。




「………そんな言うほどでもある、か」

自分の状態を思い出して苦笑う。

「ま、こいつ甘やかすのが俺の仕事だろ」



ひとまずは、[クーラー効かせた部屋で毛布にくるまってるのが一番快適]な相棒の布団になることに専念しよう。






携帯の方で、天才的ヒットのリクエストをいただきまして!
ほのぼのジャッカルとブン太、とのリクエストでした。

ジャッカルにブン太を甘やかして欲しかっただけ、な感じです。


ずっと好きではあったジャブンですが、自分で書くのは初めてですー!
かなりドキドキです。