「おーおー、忙しそうだねえ、今年も」 「飽きないもんだなー。毎年毎年」 相当離れた場所にいても目に入るほど大きく豪華な、正面の門扉からいかにも金をかけていますというような所謂「金持ちの豪邸」。 その優雅でありながら、立ち入る者を選ぶかのような空間に、不釣り合いとも言えるごくごく普通、一般庶民の自転車が一台入っていく。 颯爽とペダルを踏む少年の顔にも、その後ろの少年の表情にも、ある種の異空間へ入る緊張感は見えない。 慣れきった手つきでハンドルを握る宍戸の薄いシャツがはためく。 荷台に立ち宍戸の肩に左手を置いた向日の鮮やかな髪が風に泳いだ。 「しっかし、ここ来ると思うけど、空気読めてねーにも程があるよなー、オレら。場違いっての?」 「今頃だろ。あー帽子飛ぶなこれ。岳人ー、頭乗れ頭」 「うりゃ」 手の込んだ花々に囲まれた石畳の道を、2人乗りの自転車が行く。 此処へ向かう途中で偶然かち合った成り行きで、宍戸の自転車の荷台に向日が立っている。 ふざけて揺らす自転車から落ちそうになる、なんてことは100パーセントないとお互い分かっているし数年のキャリアがあるから宍戸はジグザグ走行に切り替えたり、向日は前にある肩に手をかけて足を浮かせてみたり。 「にしてもよ、今日は珍しいな。忍足は?」 「知らね。なんかごめん迎えに行けない〜!みたいな電話きたけど」 「ふうん」 「迎えに来いなんて言ったこと今までかつて1回もねぇけど」 右手を額にかざしてきょろきょろと、可愛らしい動作ながらなんとも可愛くもないセリフである。 「オマエこそ、デカいわんこはどうしたよ」 「ごめんなさいごめんなさいお先にどうぞ!ってメール入った」 こっちと大差ねぇじゃんと呆れ顔がふたつ並んだ。 がしゃん、と音をたてて玄関先の適当な位置に自転車を止めてまた歩く。 高そうなスーツに身を包んだ大人に扉を開けられ、先導しようとするひとりに一言断りを告げて長い廊下を進む。 「よ。今年もやってるな、お坊ちゃん」 片手をあげて遠慮なく部屋に入る。 「来たか。………よし、」 広い部屋の主が見慣れた動きでパチン、と指を鳴らすと、いつも見る執事を先頭に数名のスーツ姿が入ってきた。 「いや、ちょっ、待っ」 「跡部テメエ!何だよこれ」 宍戸と向日は、数人の使用人に連れていかれ、 「………………」 「……制服着てくりゃよかった…」 「まぁそれなりに似合うじゃねえか」 きっちりかっちりとした服装で帰ってきた。 「いい加減説明しろよ………」 「もういいからオマエ自分のパーティー行ってこいよお誕生日だろケイゴぼっちゃま」 完全に疲れきった表情のふたりに、俺様何様なキング様は言い放つ。 「ああん?俺様が祝ってやるって言ってるんだ。喜べよ」 「いや言ってない」 「つか、祝ってやるっつかオマエ今日祝われる方だろ」 「お前らの分も含まれてんだよ、今日のは」 「はあ?オレらやってもらったじゃん、誕生日」 訝しげに問いかけるふたりに跡部は唇の端をつり上げた。 「あんなもんが祝いの内に入るかよ」 あんなもん呼ばわりだが、ふたりともきっちり自分の誕生日当日にスーパー豪華なケーキとプレゼントを受け取っている。 学校行事から部活やらの予定で、他のレギュラーのような大がかりなサプライズなどはなかったのが、イベント好きの部長様にはお気に召さなかったらしい。 「今日のパーティーは、お前らふたりが主役だ」 さも当然のように口にする目の前の同級生に、当たり前の質問を。 「や、でも、オマエ毎年やってんじゃん自分の誕生日パーティー。どうすんだよ」 「オレらは冷やかしに来ただけだぜ、分かってんだろ?他の連中も来てんだろうよ」 その質問に、当たり前のように当たり前でない答えを返す。 「ああ、今年は企画の段階で崩した」 はぁ?!と声を揃えたふたりに罪はあるまい。誰だって驚く。 自分達のような、みんなで集まって食べ物持ち寄って好きなだけ騒ぐ!ようなパーティーとは違う。 そういうものなのに。 まあ完全に中止にするのは無理だったがな、ここから先はお前らの分だ、と事も無げに言ってのけるがそれでいいのだろうか。 「部長としては、部員のメモリアルに何もしないわけにはいかないだろ?」 整った顔に湛えたいつもの自信たっぷりな不敵な笑顔が 毎年豪華なパーティへ顔を出しに向かう時よりも、心なしか楽しそうだったから。 「…………は、バッカじゃねぇの」 「しゃあねーから付き合ってやるよ!」 ハッピーバースデイ、親愛なる我らがキング様!
なんかすっごい恥ずかしい。 跡部は祝われるより祝いたいタイプだと勝手に思ってます。 パーティってもこの2人が楽しめるようになのでレギュラー陣だけ呼んで飲んで食って騒ぐだけだと思います。その辺ちゃんと考える部長だといい。多分この後来るほかの面子も面白半分でタキシードとか着せられると思います。 100210加筆修正 |