ガタン、という音の後にさらに大きなバン! と音がして、あり得ないくらい唇を引き結んだブン太がすげえ形相で部屋に戻ってきた。

「お前なに……、!」

顔を上げて驚いて、言い澱んだ次の瞬間にシャツの肩のあたりを乱暴に掴まれる。鷲掴みだ。

そのままぐいと引っ張られて唇が重なる。
重ねられる、なんてかわいらしいもんじゃない。
正直痛い。
どんな勢いだ。
驚きの比率が呆れより少なくなった。
舌もねじ込まれる。
その割に酔ったみてえな顔してねえな、
なんてロマンの欠片もないことを考えた。

ちょくちょくこいつに起こる急にキスがしたくなる衝動ではないみたいだ。

それにしても、長い。

俺が長くすると怒鳴ってくるくせに。何だかんだでこいつも長いと思う。

「っは、おい、大丈夫か?」
「は、ふ、はっ……、おま、ふざけ……!」
「あ?」
「にがい!!」
「はあ? あ、お前あれ食ったのか?」
「詐欺だペテンだ!」
「いいから風呂戻れ。冷えんぞ」
「甘そうに入れとくんじゃねえよオマエも味わえハゲ!」
「もう味わったっつの」

風呂の湯船からそのまま飛び出して俺のところまで乗り込んで来たわけだから、ブン太はそのままの格好だ。
要はマッパで、髪も身体も濡れたまま。
俺の服も腕も顔も床もびしょ濡れだ。

「皮ごとかじったんだろどうせ」
「いい感じにうまそうだったろぃ」
「柚子は皮食わねえだろ」

にこにこと笑って「冬至は少し過ぎちゃったけど、香りはいいから風呂にでも入れてくれ」と幸村が持ってきたきれいな柚子を、こいつは皮ごとかじったらしい。そんなこったろうと思った。
そりゃ苦いだろ。

こいつそのうち拾い食いかなんかで腹壊すんじゃないだろうか。

「ほら、あの柚子食いてえなら今度マーマレードにするっつってたから。そしたら食えんだろ」

真田にでも作ってもらうよ、と微笑んだ顔を思い出して、心から真田に同情したくなった。

湯冷めして冷えた背中を押して、柑橘類特有の香りのする風呂場に押し込む。


とりあえず濡れた諸々をどうにかしようと、バスタオルを手にとった。




12/31の日記より。
一年の締めくくりがなぜかメインカプでもなくこれでした。
すきなんですジャブン(ジャ?)。
出かけ先でがががっと書いた記憶があります。
100312