「宍戸さん!あの、」 「おぅ、若」 「どうも」 「宍戸さん?!なんで無視するんですか!」 「あ、女子から調理実習のクッキーもらったけど、お前食う?」 「いえ、俺は結構です」 「しーしどー!オレが食べるオレが!」 「おれも欲しーなー」 「お前らももらってただろが!」 「宍戸さん!!」 「うお!?」 延々続くシカトループに耐えきれなくなった鳳にタックルをかまされた宍戸は、 「タックルとか言わないで下さいよ!ハグですハグ!」 「どこがハグだ!体格差考えろこのバ………っ」 「え、し、宍戸さん……?!ちょ、どうかしたんですか?!どこか痛いとか、」 鳳の頭を思い切り殴りながら怒鳴っている最中、いきなり顔を歪め苦しそうな顔になる。 その表情は、何かに耐えているようにも見えた。 「お前が体当たりした時に後ろに体ぶつけてただろ。頭でも打ってたんじゃないのか」 日吉の言葉はごもっともで、現に宍戸は鳳の力に押され、ぎゅ、とホールドされながらも反動で背中やら腕やらを後ろにあった机その他にぶつけていた。 「あー違う違う」 赤みがかっていた顔を真っ青に変えた鳳と、若干心配そうながらも呆れ顔の日吉に、向日が手をひらひらと振って訂正を入れる。 「別にこいつ頭とかぶつけてないからな。ってか、オマエが思いっきし抱きついてたんだから打ちようがないだろー」 「ししどはねー、ちょたより小っちゃい、って自分で言っちゃってちくしょーなんだよ」 「自己嫌悪、ってことですか」 「そうそれ!」 「…宍戸さん?そうなんですか?」 本気で心配そうな問いかけに小さな舌打ちで答え、やや機嫌の悪い声色で言葉を投げる。 「…………で?」 「はい?」 「で、なんなんだよ」 「えっと……」 話の流れが呑み込めずにおたついている鳳に、小さい先輩たちが助け船をだしてやった。 「だからね、なんの用ー?ってことだよ」 「わざわざタックルかましに2年の教室からここまで来た訳じゃないだろ?」 今は昼休みで、ここは宍戸と慈郎の教室である。 ちなみに向日は、クッキーをたかりに来ていた。 「あ、はい!そうなんです、先輩方もいらっしゃってちょうど良かったです!」 「ん、オレたちにもなんかあんのか?」 「ね、日吉!」 「俺はお前に無理やり連れてこられただけだ……」 日吉の反論は虚しく宙に消えた。 確かに日吉は、鳳に手を引っ張られる体勢のままここに飛びんで来たのだが。 「あの、今日クラスの女の子たちから聞いたんですけど、あの噂本当ですか?」 「どの噂だよ」 「おれたち結構有名人だからね〜。いっぱいあるC〜」 「えっと、たしか先輩たちが1年生の時に……」 「あれじゃね?」 「あーあれな」 「たぶんそだね〜」 いつの間にか機嫌を直した宍戸を加えて、具体的な単語が出ないまま、懐かしいなー、などと会話が進行していく。 「噂ってあれだろ?長太郎」 「オレたちが1年ときにテストでやらかしたー!」 「ってやつ!」 「はい、それです!あの、どうしてそんな事したんですか?3人で、ってことは打ち合わせてやったんですよね?やっぱり」 興味津々の表情で聞き返ってきた言葉は、 「「「別に?」」」 「打ち合わせてやるような事じゃねぇだろ」 「完ッ全に偶然だったよなー」 「すっげーびっくりした〜」 ケラケラと笑う3人に、驚き顔の鳳。 「そうなんですか……。何て言うか、すごい、息ぴったりですね…!あ、いや、その噂の話だけじゃなくって……」 元より仲が良いのは知っていたが、ここまで呼吸があっているものとは思っていなかったので、驚きが声に乗る。 「まぁ、なんやかんや言って付き合い長いからなー」 「あーむかひ、またおしたりの話し方うつってる〜」 「息ぴったり、っつってもあんまダブルス向きじゃねぇんだけどな」 再びふたりで話し始めた宍戸と向日から隠れて、慈郎が鳳に近づいてきた。 何か言いたいんだと、日吉が言う。そのまま肩に手を置かれてぐいと下に押される、というか引かれたため、膝が曲がり頭の位置が低くなった。 手を口の横に添える先輩を見て、もう少し、顔の高さが同じになるくらいに低くする。 耳元で囁く先輩は、少し楽しそうだと思う。 「ししどのさ、小っちゃい時の写真売ったげよっか?」 「え」 「今ならもれなく幼稚園の制服写真つき〜」 明らかに動揺している鳳を尻目に、日吉が呟く。 「何悪どい商売してるんですかアンタは」 「え〜だめ〜?」 そこへ、机ひとつ分離れた宍戸から声がかかる。 「ジロー、長太郎にオレのガキの頃の写真とか売ったら、今年のバレンタイン、ウチの母さんからは無いと思えよ」 「えぇ〜ししど聞いてたの〜」 「あ、何マジで言ったの?」 にやにやと笑った向日に口をとがらせる。 「いいじゃんねーそんくらーい。ねーひよー?」 「良くないでしょう」 「むー。おしたりは喜んで買ってったよー?むかひの奴」 「あー、即日廃棄した」 ついでにボコボコにしといた、と即答する向日の隣には、面子の関係上際立つ長身を小さくして頭を抱える鳳がいた。 誰が見ても分かるほどに、その顔には心中の願望が書いてあったのだが、彼の想い人は完全にスルーした。 そして予鈴がなる。 「やっべ次体育じゃねオレ!」 「ほーらお前らもさっさと帰れー」 駆け出した向日にクッキーを投げてやりながら、2年生組をけしかける。 まだうじうじしている鳳をぴしっと立たせて、両手にひとつずつつまんだ女子からの差し入れを、後輩ふたりの口にそれぞれねじ込んだ。 そのまま背の高い方の肘のあたりを掴んでくるりと反転させる。 「おれ次はおひるねの時間〜」 「何バカ言ってんですか。ちゃんと授業出てください。最近なぜか苦情が俺の方に来るんですけど」 「だいじょぶ!今はちょっと減ったけど、けど前はししどたちにもいってたから!」 何が大丈夫なんですか、とか言いながら出口に向かうふたりの背中を、名残惜しそうに渋々追った。 これ以上居座れば次の授業に遅れるだろうし、何より宍戸に本気で怒られる。 「ちょた、ちょたろ」 一度だけ振り返って教室を出たところで、一歩先に出た金髪の先輩に声を掛けられて、反射でさっきのようにしゃがみこんだ。 耳元で聞こえる少し押さえた声は楽しそうで。 「ししどの写真ね、あとであげる。ないしょ」 「え、でも、」 「だからひよしのちょーだい。こーかんこしよ!」 「……………はい、了解しました。交換ですもん、悪どい商売じゃないですもんね?」 「うん!じゃね!」 何事もなかったように、とは確信を持って言えないくらいには緩んだ顔で、慈郎は昼寝場所を探しに、鳳は自分の教室に向かおうと、先に見える日吉の背中を小走りで追った。 偶然これを目撃していた天才こと忍足侑士に余計な情報を吹き込まれ、自らの過去を回収すべくここに最恐タッグがうまれたのは、また別のはなし。 この3人の幼なじみ設定がだいすきなんですー! 昔っから3人できゃいきゃいやってればいいよね、と。 岳人のかわりに跡部を含めた3人の幼なじみ設定もすきです。 基本的に幼なじみっていうものが好きなのかもしれないです。氷帝みんな幼なじみでも構いませんもん! |