「あー、おかえりー」
「はい、ただいまです。今そこで執事さんにアイスいただきましたよ!」
「まじまじ?食っべるー!」

コントローラーを握る2人を眺めていたジローがいちばんに反応し、ベッドから飛び降りた。

「っくそ亮なに粘ってんだよ!」
「ザマ見ろいつまでも今までのオレと思うなよっ」
「てめッ落ちろ落ちろ落ちろ」
「あぁッ!きったねえぞバカ!」

アイスを食べるに食べられない向日が怒鳴り散らせば、
アイスには然程興味のない宍戸にも火がつく。
対戦相手が宍戸でなければとっとと跳び降りて高級アイスクリームをコンプリートしに行くのだろうが、ここはお互い負けるわけには行かなかった。
対宍戸では敗戦記録まっさらな向日と、そろそろ勝ちを決めたい宍戸。

取り敢えず、その1戦は終わったものの、すぐに次のバトルが開始してしまう。
全部のフィールドを終えるまで勝負がつかない設定になっていた。

さあどうする。

そして追い討ちに、

「宍戸さーん、ミント取り分けちゃったんですけど食べられますー?」

と小さなガラスの器を手に歩んで来る。後ろにはスプーンをくわえたジローもいた。

さあどうする。

ふたりの行動は同じだった。
さすが幼なじみ。

「長太郎」
「侑士」
「負けたら殺す!」

手に持つ皿とスプーンを奪い取ってコントローラーを乗せる。
一連の動作は流れるようだった。

「アンタら容赦ないですね……」
「や、このまま終わらせんのも何かアレじゃん」
「別にいいかと思ったんだけどよ、目の前で食われてっとなー」
「日吉ーおかわり」
「自分でどうぞ」
「日吉ーあーん」
「アンタは何やってるんですか」

アイスのボウルを囲んで騒ぎ始めた3人を尻目に、

「……どうぞ」
「おー、悪ぃな樺地。食うか?」
「いえ…、」
「エンリョすんなって!ほらひと口」

樺地と宍戸は親睦を深めていた。


その更に奥では、長身の男ふたりでテレビゲーム。しかもふたりとも盛り上がってはいない。という、なんともシュールな光景が広がっていた。

「忍足先輩……」
「なんー?」
「俺たちって、何やってるんでしょうね……?」
「それ言ったら負けやで。でも、ま、負けるわけにはいかへんしな」
「ですね」

惚れた弱味どころじゃない、パートナーという名の悲しい性だ。



数分後、ようやく風呂から帰ってきた跡部は、開けかけた扉を閉め直した。

「滝……、お前先入れ。入ってどうにかして来い」
「別に構わないけど、跡部が行った方が面白いと思うよ?」
「そういった類いの面白さは追求しないようにしている」
「それは残念。じゃあ仕方ないなぁ。…………………えい」

先に入るかのように見えた滝は、ドアを小さく開けてそのまま跡部を押し込んだ。
薄く開いたドアの隙間から中の様子を覗く。

「あ、跡部。なぁオマエ、コントローラーもう1個買ってくれよ。誕生日でいいから」

すぐに跡部に気づいた樺地に目ざとく気づいた宍戸が言い放つ。

ジローと向日は「跡部アイスおかわり!」、日吉はと言えば「このふたりどうにかしてくださいもしくは連れていってください。保護者でしょう!」と完全に振り回されて疲れきっている。
その上部屋の奥からは異様なオーラが漂っていた。



「あ、跡部そろそろキレるかな。今入るのもいいけど……もうちょっとだけ見てようかなぁ。―――ふふ」

氷帝学園テニス部は、今日も平和だ。