キーンコーン、カーンコーンという典型的なチャイムの音が響き、眠さをかみ殺せずにあくびをもらす生徒達が、これもまた典型的な木製の机と椅子をガタンガタンと音を立てて立ち上がり、軽く頭を下げるような動作の後、もとの椅子に着席した。

きりーつ、れーい、ちゃくせきー。
日本全国古今東西どこにでもあるような、一般的な朝の光景である。

基本的に生徒というものは、小学6年生を終え、1段階上の中学1年生という存在になった途端、<先生には大きな声でおはようございます!>という習慣をバッサリ切り捨てるものだ。
何となく、まわりの空気がそんな感じに出来上がっている。

しかし、このクラスに関しては、この定義を当てはめてはいけないらしい。

年度はじめに男子の冷やかしとやらせによる推薦でクラス委員長に祭り上げられた、クラス内の騒がしくいじられやすい彼の号令の後、「っはよーございまーす」 と、元気一杯とは言わないまでも、他クラスと比べれば確実に元気百倍な挨拶が響き渡った。

「うーっし、っはよ」

よく通る、少年のような青年のような声と同時に、ガラっと教室前側のドアが開き、ひとつにくくった長い髪をなびかせてひとり、教室に入って来た。
先ほどのラフな挨拶の言葉を聞く限り、少し遅刻ぎみで入って来た生徒、のようにも聞こえる。
見た目も、並んだ座席につく生徒たちとそう変わらない。
白のワイシャツの袖をまくり、ネクタイを軽くゆるめた姿。
それは、制服を着崩した学生のように見えて。

「よーし。出席は……、良いか、休みのヤツいねえな?」

しかし発言と立ち位置だけは、教師のそれだった。

「っしゃあギリ!」
「ギリじゃねえぞコウ!遅刻だ遅刻」
「ケチ!」
「悔しかったらもっとタイム縮めてみろ」


袖を折った白のワイシャツに、シャツといっしょに軽くまくった薄手の黒いスーツ。
上着はボタンが全開、首もとのネクタイはそれに見合うだけゆるくなっている。
女性も羨む、傷みのない長い黒髪。
生徒に対しても壁のない性格のその教師。
2年C組担任、宍戸亮。


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