「ああぁあああ!快っ、適!」

風呂から戻ってきた赤い髪の少年が、両手をにぎってぐーっ、って思いっきり身体を伸ばしながら叫んだ。
合宿すんぞ!という名目で泊まり込んだリッチでゴージャスな跡部邸で大騒ぎして遊んで怒鳴られたり、跡部専用というひとりで使いきれるわけもない程広大なコートでテニスをしたりしていた。
因みに、大騒ぎして怒られる人員というのは限られている。

この合宿なのかそうでないのかイマイチよくわからない「お泊まり会」は、3年生組を中心に、レギュラー陣の休みの恒例行事になっていた。

先ほどは、リッチでゴージャスな邸宅のキングに「風呂行ってこい」と言われまた騒いで、結局日吉が
「俺たちは後でいいので、先輩たちでどうぞお先に」
と、一部にとって空気の読める発言をしたところで、
3年生は跡部に部屋から追い出された。

うしろから聞こえてきた、

「ええー、俺宍戸さんと一緒がいい!」
「そんな面倒は御免だ」
「面倒って何!」
「お前と宍戸さんを一緒に風呂なんか入れたらまわりが迷惑だ。公害だ」
「何で!」
「悪い、語弊があった。訂正する。お前と宍戸さんを一緒に風呂なんか入れたらお前以外の全員が迷惑だ。そしてお前は十中八九セクハラか痴漢行為で訴えられる」

という会話を聞こえないフリを通している宍戸の強ばった肩に、

「ドンマイ」

誰かが同情の掌を乗せた。
「おれも日吉とがいいなー」

ジローのひとことは、誰からも無視された。






跡部は自分専用の風呂に入ると早々にいなくなり、滝はずっとサウナにいた。
昔から長時間風呂に入ることをあまり好まない宍戸が上がる時に、
顔の半分まで沈みながら眠りこけていたジローも引っ張り出された。
「おフロで寝たっていーじゃん!別に死んじゃうわけじゃないし!」
死にます。場合によっては。
その際にいっしょに上がろうとした向日は長風呂の忍足に捕まり、幼馴染みにはあっさり置いていかれた。

「裏切り者!!」
「いつもだし」

だそうだ。そろった声で。


やっとのことで熱くて暑い空間から解放された向日が、他の部屋よりもさらにクーラーの効いた部屋帰ってくるのと同時に無意味ではないかと思えるほどに大きいベッドにダイブしたのと入れ替わりで、意外と仲のいい2年生たちが風呂へ向かった。


付き合いの長いおかっぱ少年を無情にも伊達眼鏡の元へと置き去りにした黒髪と金髪の少年は、
クーラーがガンガン効いてる広い部屋のベッドを陣取り、超大画面の映画のようなテレビで対戦ゲームをしていた。

「あー!おま、そこはそれ違うだろ!」
「っせーよ集中させろ!」
「バカお前、ちょ、亮!」

宍戸はテレビゲームが病的に弱い。
見ていてもどかしくなったらしい向日が、握りしめる力の入った両手からコントローラーを奪い取った。

「ふっざけ、岳人返せ!」

完全に素で昔の呼び方に戻ったふたりがコントローラーの争奪戦をしている
因みに、向日はカードゲームが病的に弱い。ボードゲームもだ。

結局、コントローラー奪取に成功した向日と特に介入もしなかったジローがしばらくプレイしている。
このふたりになると、接戦が続く。元々器用なジローとテレビゲームが得意な向日は、タッグを組んでチーム戦になれば基本負けなしだ。


「おいジロー、変われ」

見ているのに飽きたのか負けっぱなしが癪なのか、若干拗ねたような声音で宍戸が催促する。

「うん」

自分の幼馴染みが遊んでいるのをぼーっと眺めるのも結構すきだというジローは素直にコントローラーを手渡した。

「しーしど、何回やってもオレには勝てねーって」
「っせ!次は勝つ」
「やってみそ〜」

テレビゲームにおいて、ジローと向日が組んだり、宍戸とジローがパーティを組むことはあっても、宍戸と向日がタッグを組んでチーム戦に臨むことはまずない。
結果の分かりきった勝負が始まってしばらくすると、風呂に行っていた2年組が帰ってきた。


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