「は? ゲーセン?」
「おう、おごれ」

さぞや座り心地のよろしいだろう、生徒会長特権というよりも跡部景吾特権の値段を聞きたくもない椅子に腰掛けた俺様何様を見下ろす形で、庶民派代表がぴしっと言い放つ。

一応彼の名誉のために言い足しておくと、つい最近行われた宍戸対跡部の周りから見ればしょうもないにも程がある賭けに、珍しく宍戸が勝利したのだった。
「跡部が勝ったら宍戸は跡部に手作り弁当持参」
「宍戸が勝ったら跡部は部員全員に何かしらを奢る」
というものであったのだから宍戸の要求は正当なものであると言えよう。
まだ彼の髪が長かった頃の「宍戸が負けたら女装で校内一周」に比べれば随分と良心的な罰ゲームだ。

「おい跡部、オマエさすがにゲーセン知らねーわけねえよな?」

広い机に両手をついた宍戸の背中から向日がひょっこり顔を出す。

「お前らは俺を世間知らずのお坊っちゃまだとでも思ってるのか? あ?」
「悪い思ってる」

さすが付き合いが長いだけあるというか共通意識なのか、ふたりの声は見事に揃った。

「つーか実際そうだろ」
「悪ぃけど今日は庶民派に付き合ってもらうからな景吾ぼっちゃま」
「いつも付き合ってんだろ」
「どこがだ!」





「おら、好きなだけ遊べ」
「跡部、金」
「ん」

いつも通りに馬鹿みたいに長い黒い車に乗り込もうとする跡部を引きずり下ろして、扱いに慣れている宍戸と慈郎が言いくるめて徒歩でゲームセンターへと連行してきた。
このやり取りだけ聞くと酷いようだがお互い特に何も思うところはないので問題はないのだろう、

「あの会話聞いてっと跡部金ヅルみてえだよな」
「まあ、今日に限っては金ヅルに変わりないんちゃう?」

問題はないのだろう、と、周りは思っているのだ、恐らくは。

「今回は跡部さん、ちゃんと現金出しますかね」
「んー、出しちゃうんじゃないかなあ」

前回小さくてローカリーな学生の穴場のようなファストフード店へ全員で腹を満たしに行った際に跡部に奢らせようとしたところ、なんともベタな漫画のように、ちょうどその時彼はクレジットカードしか持っていなかったのである。
食いついて大騒ぎし始めた先輩共に人前で騒ぐなと静かにキレた日吉を同級生がふたりがかりで必死に宥めていたのは、また別の話。

「あれはあれで面白いしいいと思うんだけどねえ。ね、日吉」
「面白がってんのはアンタだけですよ滝さん…。俺はもうご勘弁願いたいですね」

にこにこと微笑みをたたえた滝に、日吉は胡散臭そうに目を細めた。

「お、カードじゃねえじゃん。学んだな跡部」
「ふ、俺様をなんだと思ってやがる」
「けどよー、万札じゃ大差なくね?」

宍戸の手から奪い取った紙幣を面白そうに唇の端を上げてひらひらと振る向日に、空気を読んだのか否か鳳が「そこに両替機ありましたよね。俺行ってきますよ!」とゲームセンターに似合わない育ちの良さそうな気の抜ける笑顔を向けた。



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