ゲームセンターの為とは思えない軍資金を崩した後輩が小走りで戻って来ると、またも宍戸バーサス跡部が繰り広げられていた。
疑似和太鼓の前に立つふたりの後ろから、「宍戸オマエなら勝てる!」「行けそして日頃の恨みを!」等々捲し立てているのだった。

「えー、っと…、お金、両替してきたんですけど」

もう始まっちゃってますね、と赤と青の踊る画面を覗き込む。

「っし勝った!」
「ッチ、きっちり楽譜にしやがれ……」

一曲目、僅差ではあるが宍戸が勝利したらしい。
そうは言ってもそこは跡部、ノルマはしっかりクリアしている。それでも宍戸の慣れの方が上回った結果だ。
ノルマの得点さえクリアしてしまえば2曲目に突入出来る。「じゃあ次はオマエ選べよ」と促された跡部の曲選はクラシックだった。

「侑士、オレ太鼓でクラシック選ぶヤツってはじめて見たわ……。つーかクラシック入ってたの今この瞬間にはじめて知ったわ」
「まああんまし選ばないわな。そんなことより向日さんちの岳人くん、さっき太鼓の為にものっ凄いナチュラルに僕のサイフから抜いた400円さっさと返しなさい」
「いやーはじめて見たわー、うんうん」
「ちょっと一回冷静になって話し合おう、な。表出ようオモテ」

一瞬たりとも視線を合わせない向日の肩に両手を置いてかがむ忍足は大変に不憫だ。
その後ろでは鳳が、ここに跡部部長のお金ありますから! ケンカしないでくださいよー、などとおたおたしている。

「なあ樺地、」
「?」

日吉が隣の樺地に声を掛ける。
基本的に大人しくて空気が読めて気が使えて騒がしくないこの同級生に日吉は優しい。優しい、というと語弊があるけれど、穏やかだ。

「今ここで向日さんが忍足さんに跡部さんの金を渡さなかった場合忍足さんは損をするが向日さんが特をするわけではないだろ。渡そうが渡さまいが、どっちも特はしないと思うんだが」
「………」
「不毛じゃないか?」
「………うん」

「っくそ!」
「ハ、俺様にこなせねえ事なんざねえんだよ!」

そんな会話が背後でなされている間に、2曲目が終わったらしい。
慣れないクラシックだったからか、結果は宍戸の惨敗だ。
2回目ということで跡部もコツを掴んだらしい。

「まあ跡部は根が器用だからねえ」
「くっそ。大体コレでクラシックって邪道だ! あと頭撫でんな滝」
「え、だって慰めてほしそうだったから」
「ほしくねえ!」

「楽譜にしてくれないかなあこれ」
「鳳お前下っ手くそだな」
「力加減がよくわかんないんだよ〜日吉もやってみなよ!」
「嫌だ。お前はともかく樺地は完璧だしな」

早々にリズムゲームに飽きた面々は店内を彷徨き始める。
400円戦争が勃発していた忍足向日はいつの間にか帰ってきていた。
一生懸命相手をしていた鳳は帰ってくるなりバチを持たされたことになる。



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